忘れないうちに、セックスピストルズ好きのEくんのその後。
黒板の絵は週代わりで変わった。
そしてわたしの家に毎日郵便箱に入らない位の分厚い手紙が届くようになった。
Eくんからの手紙である。
恋愛感情というのではなかった。
彼のものすごく長い歴史やら世間への思いやら、鬱屈した内に向かう感情がえんえんと(本当に一回のお手紙が必ず20枚を越していたからもうえんえんと)つづられていた。
誰にも認めてもらったことも褒めてもらったこともない人生だったと。
でも「才能はある」というわたしの一言で、なんだか嫌いだった世間とつながる小さな窓が見えたんだと。
なんとお返事していいかわからなかったので「うん、よくわかった」とだけ手紙に書いてポストにほりこんでおいたら、翌日からもっと分厚い手紙が・・・。
あまりにも細かい字でたくさん書いてあるので適当に斜め読みしていたが、「前回の手紙の○ページ目の真ん中あたりに書きましたが・・・」とかいうくだりを発見、毎回コピーして原本をわたしに提出していたんだと驚きを感じた。
今思うと、鬱屈していたものを彼は一所懸命吐き出そうとしていたんだろう。
パンクやメタルやそれを絵で表現することが、彼にとって唯一の表現の場所だったんだと言う。
彼の絵はおどろおどろしいけど、ものすごく生きるエネルギーに満ち溢れていてなんだかとても惹きつけられるのだ。
しばらく分厚いお手紙が毎日届けられていたが、その後Eくんがゼミのあと話しかけてきた。言いにくそうにしていたが、自分の氷のような感情を開放してくれた記念にわたしの肖像画を描かせてくれないかと。
バイトとクラブで忙しいので時間はとれないけどと言うと、大丈夫頭の中でもう描けてるという。
しばらくして絵が届いた。
目のきらっとした不思議な感じの肖像画だった。
その後のEくんは相変わらず無口だったけど、わたしを含む数人のゼミ生とはしゃべるようになった。
誰にでも人生で、感情を開放するきっかけやタイミングがあるのかな。
たまったものは少しづつ出して、流れをよくしないとね。
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